あらすじ
【作品紹介】
世界の大半は、魔物の領域である。
人々が暮らせるのは、「魔力炉」が生み出す結界に守られた都市や村、その間をつなぐ街道だけ。
結界の外には無数の魔物が生息しており、ひとたび結界に穴が開けば、それまで外界を埋め尽くしていた魔物が人間の領域へ一斉に流れ込んでくる。
それが「魔物氾濫」である。
【魔力炉と結界】
各都市や集落の地下には、魔力が集まる「地脈」が存在する。
人々は地脈に集まった魔力を「魔力炉」で吸い上げ、その魔力によって都市や村を覆う結界を維持している。
さらに魔力炉から周辺の「中継塔」へ、電線のように魔力を送り続けることで、都市同士をつなぐ街道にも結界を張っている。
中継塔は送られてきた魔力を蓄積しながら別の中継塔へ流していく。
中継塔が多く、十分な魔力が行き渡っている地域ほど、街道や集落を守る結界も強固になる。
つまり、この世界における人間の生活圏と安全は、すべて魔力によって支えられている。
しかし、魔力炉や中継塔が破損したり、供給される魔力が不足したりすれば結界は弱まり、やがて穴が開く。
その瞬間、魔物氾濫が始まる。
【小隊】
氾濫した魔物と戦うのは、剣士、盾役、魔道士、回復役などで構成された「小隊」である。
結界の穴が小さい小規模氾濫では、各小隊が独自に魔物を討伐する。
討伐した魔物の素材は大きな収入源となるため、小隊同士が早い者勝ちで競い合うことも珍しくない。
一方、中規模以上の氾濫になると状況は一変する。
結界が大きく破損し穴が広がると、大量の魔物や、小規模では入れなかった大型の魔物も流入するため、個々の小隊だけでは対応できない。
各小隊は領主の指揮下へ入り、前衛、盾役、攻撃役、魔道士、回復役などへ再編され、一つの大きな部隊として都市や集落を防衛することになる。
【魔力中央集権政策】
魔力は、王国全土に均等に存在しているわけではない。
人口が集中する王都周辺にも地脈の弱い地域が存在し、結界を十分に維持できない場所があった。
安全な居住区域や街道を拡大できないことは、人口増加や物流を妨げ、王国の国力低下にもつながっていた。
そこで当時の王国宰相ローデルが推し進めたのが、「魔力中央集権政策」である。
王国各地の魔力炉から魔力を集め、膨大な魔力を一度王都へ集中させる。
そこから王都を中心に、王都に近い都市や集落へ必要な魔力を再分配していく仕組みである。
この政策によって、人口の多い王都とその周辺では大量の魔力を安定して確保できるようになり、強固な結界を維持できるようになった。
街道も安定し、人や物資の往来も活発になる。
王国の国力も上昇し、大きな成果を上げた政策だった。
だが、その代償は辺境に押しつけられた。
王都へ送る魔力が増えれば、その土地に残る魔力は減る。
さらに王都から遠い地域ほど、再分配される魔力も少ない。
辺境では魔力炉や中継塔へ十分な魔力を供給できなくなり、結界の弱体化や破損が増加。
以前よりも魔物氾濫が頻発するようになった。
人口の多い王都圏の安全と発展を優先する代わりに、人口の少ない辺境ほど危険を背負う。
それが、魔力中央集権政策の最大の問題だった。
【エルミナ事件】
物語の三年前。
魔力中央集権政策の影響を受けていた都市エルミナで、中規模の魔物氾濫が発生した。
当時の宰相ローデルは、王都の防衛力を低下させることを恐れ、王都から援軍を派遣せず、エルミナ周辺の現地部隊だけで対応することを決定する。
現地部隊だけでは氾濫を食い止められず、魔物は次々と結界を突破。
エルミナ市街へ流れ込んでいった。
当時十五歳だったレオンは、弟のリオと共に父ローデルと王都で暮らしていた。
エルミナの状況を知ったレオンは、父の命令に背くことを決意する。
騎士団の精鋭だったギルとボルドも、それに加わった。
三人は命令違反が発覚しないよう人目を避けながら王都を出発したため、すぐに現地へ向かうことはできなかった。
エルミナへ到着した時には、すでに市街へ大量の魔物が侵入して、壊滅状態だった。
それでも三人は、一人でも多くの人を助けたい一心で動き始める。
その中で、教会兼孤児院に残り、子どもたちを守り続けていた神官のフィアと出会う。
レオンたちは魔物に囲まれた孤児院へ突入し、フィアと子どもたちを救出した。
しかし、都市全体を救うには遅すぎた。
エルミナは壊滅的な被害を受ける。
事件後、ローデルはエルミナ壊滅の責任を問われ、宰相を解任。
自領である辺境伯領へ戻され、事実上の左遷となった。
居場所を失くした五人の天才たちが、のちの「レオン小隊」を結成するきっかけとなった転機となる事件である。
【現在の物語】
物語の舞台は、王都から遠く離れたローデル辺境伯領。
本編の主人公は、十四歳の少年リオ。
リオが何よりも憧れているのは、兄レオンが率いる五人の精鋭――レオン小隊である。
異常な剣技を持つ隊長レオン。
大剣を振るい、圧倒的な攻撃力で敵をねじ伏せるギル。
巨大な盾を構え、誰よりも仲間の前に立つボルド。
規格外の魔力と無詠唱の大魔法を操るエリス。
無詠唱の高精度な治療魔法で仲間を支えるフィア。
五人は、それぞれが天才と呼ばれるだけの力を持つ。
リオは、いつか自分も兄たちと肩を並べることを夢見て、毎日剣術と走り込みを続けている。
だが、リオには兄たちのような規格外の戦闘能力はない。
剣ではレオンに及ばない。
力ではギルに及ばない。
守りではボルドに及ばない。
魔法も使えない。
そんなリオに一つだけ、人並み外れて優れているものがあった。
戦場を見る力である。
前衛のわずかな後退。
盾役の立ち位置。
魔道士が攻撃する間隔。
回復役が次に誰を治療するのか。
魔物の数、動き、配置。
味方の疲労。
それらを観察し、
「次にどこが崩れるのか」
「誰が危険になるのか」
「何秒後に何が起こるのか」
それらを観察し、戦線が次にどこから崩れるのか――その「崩壊線」を予測する。
まだ十四歳のリオ自身は、その能力の価値を理解していない。
今はただ、兄たちの背中を追い続けているだけである。
しかし、やがてリオはその力によって小隊の戦い方そのものを変えていく。
一人の天才がすべてを救うのではない。
誰がどこで、何をし、何秒耐えれば仲間が生き残れるのか。
戦場にいる全員の動きを組み合わせ、死者が出る前に崩壊を防ぐ。
その考え方はやがて小隊の枠を越え、戦場全体を管理する戦術へと発展する。
後に「ノーデス戦術」と呼ばれることになる戦い方である。
これは、圧倒的な力で人を守ろうとした兄たちの背中を追っていた少年が、
誰か一人の強さではなく、
「全員で生き残るための戦い方」
を作り上げていく物語である。
【主要人物】
・リオ
本編の主人公。十四歳。レオンの弟。
兄とレオン小隊へ強い憧れを抱き、いつか自分も仲間になることを夢見て、毎日剣術と走り込みを続けている。
兄たちのような突出した戦闘能力は持たないが、味方と敵の動きを観察し、戦線が「次にどこから崩れるのか」を予測する能力に優れている。
その力はやがて、小隊だけではなく戦場全体から死者を出さないための「ノーデス戦術」へと発展していく。
・レオン
レオン小隊の隊長。リオの兄。
異常な剣技と戦闘能力を持つ天才。
目の前で助けを求めている者を決して見捨てない。
三年前のエルミナ事件では父ローデルの命令に背き、ギル、ボルドと共に救助へ向かった。
リオにとって、最も身近な兄であると同時に、何よりも憧れる英雄でもある。
・ギル
元宮廷騎士団所属。
圧倒的な膂力を持つ大剣使い。
強すぎるため騎士団内では「化け物」と呼ばれ、扱いにくい人物として疎まれていた。
エルミナ事件ではレオン、ボルドと共に命令に背いて王都を離れ、現地へ向かった。
事件後、命令違反を巡って上官と衝突し、暴行。
騎士団を免職されて以降、レオンに付き従っている。
粗暴で口は悪いが、仲間思いの一面がある。
・ボルド
元宮廷騎士団所属。
巨大な盾を扱う盾役。
後輩であるギルを長年面倒見てきた。
エルミナ事件ではギルと共にレオンについて現地へ向かい、事件後もギルに誘われる形でレオンに付き従った。
寡黙で面倒見がよく、危険な場面では誰よりも先に仲間の前へ立つ。
・エリス
元宮廷魔道師団所属。
次期団長候補とまで言われた天才魔道士。
王国でも指折りの膨大な魔力を持ち、無詠唱で大規模な魔法を使用できる。
一方、細かな範囲指定や出力調整を苦手としており、宮廷魔道師団では「扱いにくい天才」と評されていた。
そんな自分の能力を戦場で生かす役目を与えてくれたローデルに恩義を感じ、彼が失脚した際も王都に残らず辺境伯領まで付き従った。
戦闘だけでなく、魔力炉や中継塔など魔力インフラの修復も担当する。
フィアほどではないが、回復魔法も少し使用できる。
・フィア
無詠唱で高精度の治療魔法を使用する回復役。
三年前のエルミナ事件では、教会兼孤児院に残り、魔物が市街へ侵入したあとも子どもたちを守り続けていた。
そこへ駆けつけたレオンたちによって救出される。
命の恩人であり、自分にとっての英雄でもあるレオンへ、強い敬愛と秘めた恋心を抱いている。
・ローデル辺境伯
レオンとリオの父。
元王国宰相であり、「魔力中央集権政策」を推し進めた人物。
人口の集中する王都圏を守り、王国全体の国力を高めるために政策を進め、成功させた。
一方で、その結果として辺境では結界が不安定になり、魔物氾濫が増加した。
エルミナ事件では王都防衛を優先して援軍派遣を拒否し、現地部隊だけで対処する判断を下す。
その判断によって十分な戦力を得られなかったエルミナは魔物氾濫を食い止められず、壊滅的な被害を受けた。
事件後に責任を問われて宰相を解任され、自領へ戻された。
領主として一人でも多くの人間を守るためなら、一部を切り捨てる冷徹な判断も下す。
しかし、自分の判断によって救えなかった命を忘れているわけではなく、その責任を背負い続けている。