あらすじ
「毒見女なら死なないだろう? ほら、干してごらん」
祝宴の夜。婚約者の侍従長ラウレンツは、笑いながらそう言って杯を寄越した。
宮廷薬師にして毒見の当番、ヴェレナ、二十九歳。作法どおり舌の先で受けた一滴に、鈴の花の匂いと痺れが載っていた。
白鈴草。殺す量ではない。――毒見役の舌を封じ、黙らせるための毒である。
毒見役の舌を封じて得をする者は、今夜これから毒見される杯の向こうにしかいない。御前の乾杯は、四半刻後。
「毒見役として申し上げます。今宵の御杯、いま一度あらためます」
試し紙は二枚とも、同じ黒に変わった。殿下の杯と、彼女の杯。同じ毒。
杯の並びを今夜だけ差配した男。袖の小瓶。そして口を滑らせた一言――「あれは、死ぬ量ではなかった」。
死なない量を知っているのは、量った者だけである。
「その乾杯、犯人のお席までお返しします」
五年間、人の悪意を先に舐めてきた舌が、今夜、国を救う。
殿下の言葉は「今宵より、そなたは俺の直属だ。俺の杯は、そなただけが検めよ」。差し出された手を、彼女は検めてから取った。