あらすじ
娘が中学生になって、少しだけ自分の時間が増えた。
42歳の図書館員・藤井美穂は、その時間をどう使えばいいのか分からなかった。
家族のため、仕事のため。 これまでずっと誰かの予定を優先してきたから、「自分が好きなこと」と聞かれても、すぐには答えられない。
そんなある休日、美穂は植物園のワークショップに参加する。
講師は、人前で話すことが苦手で、どこか頼りない佐伯悠真。
うまく説明できない彼と、うまく質問できない美穂。 気まずい沈黙の中で、美穂は一枚の葉を手に取る。
そこに走る、細い葉脈。
葉っぱの中にも、こんなふうに道がある。
それは、美穂が長いあいだ見ようとしなかった、自分自身の時間にも少し似ていた。
植物を見る。 本を読む。 季節のものを作る。 小さな企画を考える。 失敗して、また作り直す。
「好き」は、特別な才能じゃなくてもいい。 誰かに認めてもらわなくてもいい。
そう気づいた美穂は、少しずつ自分のための時間を取り戻していく。
植物園で出会った佐伯にも、彼自身の選ばなければならない場所があった。
わずかなでも、同じものを見た時間は残っていく。
人生は、いつからでも始められる。
42歳の美穂が、葉脈の向こうに見つけたのは、 「これから何をするか」ではなく、 「これから何を好きになってもいい」という、自分自身の入口だった。