あらすじ
あと七日で、彼の音は聞こえなくなる。
幼いころ、父の肩の上から見た阿波踊り。その記憶に引かれるように徳島の大学へ進んだ真帆は、軽い気持ちで参加した大学連をきっかけに、踊ることに魅了されていく。
やがて有名連へ入った真帆が出会ったのは、寡黙な鉦打ち・修平だった。
大勢の鳴り物のなかから、彼の音だけを聞き分ける真帆。大勢の踊り手のなかから、彼女だけを見つける修平。音と身体で心を通わせた二人は、恋人という名前をつけないまま、誰よりも深く結ばれていく。
しかし、病を抱える父のため、真帆は卒業後に神戸へ帰ると決めていた。一方、修平は藍染めの職人として徳島に根を張る道を選ぶ。
別れてから五か月後。連の代表として踊るため、真帆は再び徳島へ戻ってくる。滞在先は、かつて何度も夜を過ごした修平の家の旅館。ただし今度は、離れではなく、客室の客として。
祭りが終われば、真帆はまた神戸へ帰る。
言えば、きっと相手は自分の夢を捨ててしまう。
互いが積み重ねてきた時間を愛しているからこそ、二人は「残ってほしい」とも「一緒に来て」とも言えない。
阿波踊りの熱に包まれた徳島を舞台に、鉦の音と踊る身体が紡ぐ、名前のない恋の物語。