あらすじ
青森に水を与え、雪を与え、山菜を育て、温泉を湧かせる八甲田。
古くから山を知る者たちは、その山を決して「呪われた山」とは呼ばなかった。
むしろ言う。
「八甲田ほど、人さ物くれる山、ねえべさ」
ただし、山には守るべき作法がある。
山菜は全部採るな。
最後の一つを残せ。
山が荒れたら帰れ。
誰もいない場所から名前を呼ばれても返事をするな。
夜中に湯を空にするな。
水は少し山へ返せ。
雪の下から出た裸の手には触れるな。
そして――
「自分だけは大丈夫だ」と思った時こそ、帰れ。
全国の怪談を収集して歩く一人の男が、八甲田周辺に残る奇妙な話を集め始める。
山菜を最後の一本まで採った男。
死後も吹雪の中を行軍し続ける兵士。
深夜の温泉を守り続ける「湯守」。
家族の声を真似て人を呼ぶ何か。
水面に一人多く映る地獄沼。
雪の下で今も「帰りたい」と手を伸ばす者たち。
そして、人が消えるたびに一本増えるという樹氷――スノーモンスター。
別々に見えた怪談は、やがて一つにつながっていく。
八甲田は、本当に人間を生贄として求めているのか。
それとも――
山は最初から、人間を何かから守ろうとしていたのか。
青森に恵みを与え続ける大霊山を舞台にした、全十二話の連作怪談。
本作は、青森県・わを舞台としたフィクションです。
八甲田の自然、地名、山岳信仰、実際に知られている歴史や自然災害などから着想を得ていますが、作中の人物、怪異、会話、禁忌、出来事の多くは創作です。
実在の事故・災害で亡くなられた方々や関係者を怪異の原因として扱うことを目的とした作品ではありません。
本作における八甲田は、「恐ろしい山」ではなく、青森へ多くの恵みを与える一方、人間には決して支配できない“大霊山”として描いています。
(『わ』とは津軽弁で自分の事、一人称です。)