あらすじ
五年間の献身を、練習と呼ばれた。
侯爵家の婚約者として、リーゼルは三ヶ国語を操った。
来賓の文化に合わせて献立を変え、席次を組み、言葉を選んだ。
誰にも気づかれない仕事だった。
ある夜、テラスの向こうから笑い声が聞こえた。
本命が来るまでの練習台。
それが、五年間の正体だった。
翌朝、リーゼルは婚約を解消する。
振り返らなかった。
泣くのは全部終わらせてからと決めた。
彼女の三ヶ国語を、本物だと言った人がいた。
隣国の外交官だった。
練習ではなく外交そのものだったと、その人は静かに告げた。
新しい場所で、リーゼルは自分の言葉を取り戻していく。
彼女を失った侯爵家は、静かに崩れ始める。
練習台と呼んだ相手が、交渉の席の向こう側に座る。
その時、何を思うのか。