あらすじ

「王女への口説きは外交だ。君は黙って、聞こえのいいように訳していればいい」 条約調印の式典を前に、婚約者の外交官ゲレオンはそう言った。両国の言葉を九年間運んできた王宮の首席通訳官イルメラ、三十一歳は、静かに頷く。 「承知しました。では式典では、わたくしの言葉は一言も差し挟みませんわ」 式典の壇上。彼が隣国の王女に囁いた南の言葉の甘言を、イルメラは一語違えず北の言葉に訳した。凍りつく自国の重鎮たち。あわてて取り繕う彼の言い訳を、今度は一語違えず南の言葉に訳した。扇を閉じる王女。 訳すたびに、会場の温度が一段ずつ下がっていく。 進退きわまった彼は、ついに叫ぶ。「通訳が違えたのです」と。 ――お生憎さま。この式典の言葉は、すべて両国の記録に残っておりますの。 「あなたの二枚舌、両方とも正確に訳します」 黙らされた女は、自分の言葉をひとつも足さなかった。彼を沈めたのは、最初から最後まで、彼自身の言葉である。

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小説を読もう2026/09/01
  • 現在の作品「王女への口説きは外交だ」と婚約者に黙らされましたので、一語違えず両国へ通訳しました ~凍りつく重鎮たち。取り繕ってももう遅い~