あらすじ

高校三年生の高坂葵(こうさか あおい)は、進学校の特進クラスに通う受験生。二年前までは美術部に所属し、輝かしい才能を持つ二学年上の先輩・織田蓮(おだ れん)に恋をしていた。しかし、蓮がコンクールで大賞を受賞した、葵の笑顔をモチーフにした絵『一握りの火薬(リトルフラワー)』の圧倒的な熱量に触れたとき、葵は自分の平凡さに絶望する。彼の光に焼き尽くされる恐怖と劣等感から、葵は絵を描くことを辞め、二年前の雨の夜、地元の「星ノ宮駅」のホームで蓮に別れを告げた。それ以来、彼女は「傷つかないため」に感情を無彩色に塗りつぶし、勉強だけに没頭する空白の日々を送っていた。梅雨の終わりのある夜、二五時。塾の自習室の閉館まで残り、終電が去った誰もいない星ノ宮駅のホームに立ち寄った葵は、雨が上がったにもかかわらず、半開きの折りたたみ傘を閉じられずにいた。それは、終わった恋に区切りをつけられない彼女の心そのものだった。そこに、東京の美術大学に進学したはずの蓮が、偶然にも現れる。二年ぶりの奇跡的な再会だった。自販機の薄青い光に照らされた深夜のベンチで、二人は二年前の「答え合わせ」を始める。蓮は、東京の美大で周囲の天才たちに揉まれ、自分の『火薬』がおもちゃのようだと孤独を抱えていたこと、そして「あの日、葵に『行かないで』と引き止めてほしかった」という、高校生ゆえの不器用な本音を告白する。葵もまた、蓮の未来を奪わないために必死で手を放したという二年間の痛みを涙ながらにぶつける。蓮がポケットから取り出したのは、二年前、葵が部室に置き去りにした「勿忘草色」のパステルだった。蓮は「お前の描く『小さな花』がなければ、自分の絵はただの空白だ」と告げ、もう一度葵に筆を取ることを促す。先輩の変わらない熱量と不器用な優しさに触れた葵は、ついに半開きの傘を完全に閉じる。過去の呪いに区切りをつけ、もう一度自分の手で未来を彩る決意をしたのだ。夜明けを告げる始発の音が遠くから聞こえ始める中、二人は手をつなぎ、もう一度あの放課後のアトリエへと向かうために、朝焼けの階段を上り始める。

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小説を読もう2026/09/01
  • 現在の作品リトルフラワーの降る駅で