あらすじ

亮介がほかの女と親しげにしていることに気づいてからも、私は、きちんと向き合って話すべきか迷っていた。ところが翌日、ネット上で六年前の動画を見つけた。悠斗を出産したとき、病院のルールで許可された範囲なら家族が撮影できたため、亮介は記念に残したいと言って、立ち会い出産の様子をスマートフォンで少しだけ撮っていた。映っていたのは私の顔と、握り合った手、それから痛みで言葉も出なくなっている私の姿だけだった。  その映像が、今になって十数分の動画に編集され、亮介のアカウントへ投稿されていた。タイトルは「妻の出産に立ち会って、初めて母親のすごさを知った」。動画は瞬く間に話題になり、リアルで感動したという声の一方で、痛みに耐える私の表情を切り抜いて面白がる人まで現れた。  亮介は概要欄に、「これから出産を迎える家庭の役に立つなら、美緒が頑張ったことにも意味があると思います」と書いていた。その一文を見た瞬間、もう話し合う気持ちは消えた。 「離婚しよう。悠斗は私と暮らす」  亮介は私を見ても、ほとんど驚かなかった。 「いいよ。ただ、離婚したい、悠斗も主にそっちで育てたいっていうなら、先にこれへサインして」  私はテーブルの書類に目を落とした。離婚後も定期的に撮影へ参加し、離婚したことは公表せず、カメラの前では仲のいい夫婦を演じ続ける。亮介のアカウントと企業案件のイメージを守るための契約だった。どうやら、この日を待っていたのは彼も同じだったらしい。  私は袖口に隠していたスマートフォンを取り出した。ライブ配信の画面はずっと真っ暗だったが、音声は切っていない。増え続ける視聴者数を見ながら、私は口を開いた。 「今の話、みんな聞こえてましたよね?」

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エブリスタ
エブリスタ2026/08/31
  • 現在の作品「愛妻家」を売りに大人気となった夫、その動画の無料小道具にされていた私