あらすじ
転職を機に、初めて営業職に就くことになった三枝郁人、24歳。
必要になったのは、仕事用のスーツ。
けれど郁人は服にほとんど興味がなく、
「紺か黒なら、どれも同じじゃないの?」
というレベルだった。
何を選べばいいのか分からないまま訪れたスーツ店で担当してくれたのは、副店長の桐谷晃平、26歳。
高校卒業後から八年間スーツ販売一筋。
販売士2級を持ち、採寸もコーディネートも完璧な晃平は、郁人に似合う一着を次々と選んでいく。
「分からないんで、全部お任せしていいですか?」
何気なくそう言った郁人だったが――。
スーツの受け取り。
シャツの買い足し。
うまく結べないネクタイ。
何かと理由をつけて店を訪れるたび、なぜかいつも晃平が郁人を見つけてくれる。
サイズも。
好みも。
以前選んだネクタイまで。
「……俺のこと、覚えすぎじゃないですか?」
「接客業ですから」
そう笑う晃平だけれど、本当にそれだけ?
やがて店の外でも会うようになり、二人の関係は“客と店員”から少しずつ変わっていく。
そして恋人になって分かったこと。
仕事中は頼れる副店長の晃平は――郁人のことになると、驚くほど分かりやすい。
姿見の前。
自分が選んだスーツを着た郁人の肩に手を置き、幸せそうに見つめる晃平。
鏡越しにその顔を見つけ、郁人は思わず笑った。
「晃平、顔に出てる(笑)」
「何が?」
「俺のこと大好きって」
すると晃平は郁人の耳元へ顔を寄せて――。
「だって……大好きだもん♡」
スーツには興味がなかったはずなのに。
いつの間にか郁人は、
スーツより自分を見ている副店長に、たっぷり愛されていました。