あらすじ

深宇宙観測施設の遮蔽区画に、ある夜、一人の青年が「結果」として現れた。 「妹は……ミアは無事ですか」 目を覚ました彼が最初に発したのは、自分の名前ではなく、妹の安否だった。ユウ・レヴァンと名乗る青年の語る国も、都市も、星の名前すら、この宇宙のどこにも存在しない。それでも彼の記憶は、白いご飯と豆腐の味噌汁、甘めの卵焼きという、災害当日の朝食の匂いまで鮮明に語れるほど具体的だった。 主任研究者セラ・ヴァイスは慎重に真相へ近づいていく。ユウの見る夢は記憶の再生ではなく、現在進行形で続く故郷の生活だった。予告された宇宙変動が的中するたび、希望は膨らみ、同時に彼の身体は「観測資源」として扱われていく。 「妹には名前がある。ミアだ。対象じゃない」 医療担当ノア・アーデンは彼の意思を守り続け、管理統括官グレン・ハートは二つの宇宙の安全という、誰も引き受けたがらない責任を背負う。そしてやがて明かされる答えは、帰還の座標ではなかった――故郷は、観測対象であるブラックホールの事象の地平面の向こうに生まれた、独立した宇宙そのものだったのだ。 場所が分かった瞬間、それは「二度と物理的には帰れない」という確定に反転する。絶望の底で、ユウは眠ることさえ拒もうとする。だがそのとき、故郷側で兄を待つのをやめた妹が、消失地点から信号を送り続けていた。二・一・二。幼い頃、停電した家で交わした帰宅の合図。 「帰るために、もう一度消えないで」 境界の向こうから届いた妹のひとことが、自らを扉として消えかけていた兄を引き止める。宇宙の謎よりも大きく残るのは、一人の青年が「守るとは、代わりに傷つくことではなく、互いの選択を残したまま関係を続けることだ」と学んでいく過程――それがこの物語のすべてだ。

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カクヨム
カクヨム2026/08/31
  • 現在の作品BLACK HUMANOID 〜ブラックホールの中に、僕の家がある~