あらすじ
「行き場のない娘だ、置いてやってくれ。……いや、君の侍女として、だ。君なら分かってくれると思った」
侯爵ヴィルフリートは、そう言って若い娘を屋敷へ連れ帰った。
嫁いで七年、鍵束と給金台帳を預かってきた侯爵夫人リュディアは、微笑んで頷いた。
「承知しました。では、正式に雇い入れます」
雇用の証文。十日ごとの給金。仕着せ。起床の刻と、休みの日。
そして、この家の則――〈使用人は、主の寝間へ入らぬ〉。
三日で、娘のハンナは本当に侍女になった。夜、夫が呼んでも「申し訳ありません、お仕事中ですので」と断る侍女に。
生まれて初めて自分の名で呼ばれ、自分で稼いだ金を手にしたハンナは、やがて自分の意志で、女主人にひとつ告げる。旦那様が隠している書き付けの在り処を。
夫は気づいていない。使用人は正妻になれないこと。主が使用人に手を出せば、家名の恥として離縁の事由になること。
そしてこの屋敷が七年前、妻の持参金で買い戻されたものであること。
「出て行くのは、あなたですわ」
置いてやってくれ、と言ったのは、彼のほうである。
「ええ、あの子はよく働きます。――あなたよりも、ずっと」