あらすじ
人々が祈り、恐れ、語り継いできた「神」「怪異」「伝承」を調査・分析し、その存在が人に恩恵を与えるものなのか、それとも危険な存在なのかを査定する国家機関――神格鑑定局。
そこに所属する異端の鑑定士・神代蓮のもとへ、ひとつの特異案件が持ち込まれる。
長崎の旧家で発見された、古びた聖遺物。
そこから顕現したのは、三百年以上前に歴史の中へ消えたはずの少年――天草四郎時貞だった。
純白の陣羽織をまとい、静かな微笑みを浮かべる少年は、伝承に残る数々の「奇跡」を次々と再現してみせる。
海を渡った奇跡。
卵の中から現れた聖書。
盲目の少女に光を取り戻させた奇跡。
局内では、彼を本物の「神の御使い」と見る声が高まっていく。
しかし神代蓮だけは、その奇跡を信じない。
「奇跡なんてものは、起きた瞬間よりも――誰が、なぜ、それを奇跡と呼んだのかを見るべきだ」
蓮は、ひとつひとつの奇跡を冷徹に分解していく。
そこにあったのは神の加護ではなく、追いつめられた人々の祈り、恐怖、期待、集団心理、そして「救世主を必要とした民衆」の思いが生み出した、あまりにも人間的な現象だった。
やがて調査は、島原の乱で命を落とした無数の人々の記憶が渦巻く、神格の深層領域へと踏み込んでいく。
そこで蓮が目にしたのは、英雄でも、聖人でも、悪霊でもない。
ただ、多くの人々から「救世主であること」を求められ続けた、一人の少年の姿だった。
天草四郎は、本当に奇跡を起こしたのか。
彼は民衆を欺いた偽物だったのか。
それとも――。
三万七千人の祈りと怨念の果てに、神代蓮が暴き出す「最後の嘘」。
その嘘の奥には、歴史にも伝承にも残されなかった、たったひとつの真実が眠っていた。
神、怪異、伝説を“鑑定”し、その正体を暴く。
歴史と伝承を大胆に再解釈する、神格鑑定ダークファンタジー。
――「奇跡」は偽物だった。
だが、少年が最後まで守り抜いた「嘘」だけは、本物だった。