あらすじ
祖母が危篤。
大学二年の七月。敬愛する祖母の緑子が危篤であると知らされた花純。すぐに会いに行くことを決意する。でもこの夏は、秀平と旅行に行こうと思っていた。
大学での花純は課題に追われる毎日。たとえ夏休みとはいえ、遠出二回分も時間を確保できない。
秀平と旅行には行きたい。しかし祖母はもう会えないかもしれない。苦渋の決断。しかし秀平はあっけらかんと返す。
「俺が花純の祖母ちゃんち行けばよくね?」
かくして秀平が麻生家の車に乗せて千葉県は香取市、常盤村へ。かつて有名だった大工の家系で、神社や村役場の設計、建築にも携わった経歴のある名家だったこともあり、花純のお祖母ちゃんの家はそれはもう豪邸。
毎年夏に開かれる「常盤風鈴まつり」も目前に迫り、豪邸の周りはもちろん、村中に風鈴が飾られ活気付いていた。
祖母の危篤に伴い、各地からは親族が集まっていた。花純のお父さん曰く「母さんの遺産が欲しいんだろう」とのこと。実際これだけの家の財産ともなれば欲しいものだろうが……。
「麻生家の遺産に位列はない。相続の原理は極めて単簡。財産の所有権を持つ者が残した謎を解け」
なんでも花純のお祖母ちゃん、緑子は七人兄妹の末っ子という、遺産の相続からは一番遠い立場だったのにも関わらず、かつての家長が残した謎を解いたがために相続者となった経歴を持つらしい。
その遺産のおかげでいいことも悪いこともあったそうだが、結果として当時好いていた男性と結ばれて今の花純がある。
緑子は自身の死に際してもその伝統を受け継ぐらしい。
すなわち、緑子の残した謎を解いた者に遺産の相続権が渡るのだ。
──私はね、暗号を残して死ぬよ。
祖母は常々そう口にしていたらしい。
「宵闇の野々に響しかねのわは宵闇の野の月へ囁く」
やがて緑子はそう残して死んだ。
──短歌!
一族は騒然とする。
──短歌が暗号!
早速遺産目当てで集まった親族は謎を解こうと必死になる。時に人を裏切り、時に人を欺き、なすがまま、赴くままに……。
昔あんなによくしてくれた親戚たちが、金に目が眩んで凶暴になっていく。
悲しむ花純。
するとそれを見ていた秀平が……?