あらすじ

鈴が鳴る夜、名を呼んではならない。 月神殿メミスの記録官見習い、ユウリは、 封鎖記録庫の片隅で奇妙な古い台帳を発見する。 そこに記されていたのは、 七十年以上前に廃村となった《音無村》。 村人たちの家族構成も、 役目も、 生没年も残っている。 ただひとつ。 名前だけが、すべて黒く塗り潰されていた。 そして最後の頁に残された警告。 《鈴が鳴る夜、名を呼んではならない》 近年、音無村の周辺では、 存在しない鈴の音を聞いた者が、 翌朝から声を失う怪異が続いていた。 原因を確かめるため、 ユウリは音の異常を聞き分ける祓音補佐官、リオナとともに廃村へ向かう。 だが、村は最初からおかしかった。 川は流れているのに、水音がない。 風鈴は揺れているのに、鳴らない。 風は吹く。 草も揺れる。 なのに――音だけが選んで消されている。 村の入口には、もうひとつの警告があった。 《ここより先、名を呼ぶべからず》 そして夜。 鳴るはずのない鈴が、鳴った。 一度目。 リオナの名前の一部が、記録から滲む。 聞こえてきた子どもの声は告げる。 「まだ、ひとつめ」 二度目。 言葉の意味が壊れ始める。 「逃げて」は「呼んで」に。 「分かってる」は「疑ってる」に。 声は本人のものなのに、 聞こえる意味だけが別のものへ変わっていく。 もう、会話さえ信用できない。 残されたのは、 手を握る感触と、 互いの体温だけ。 そして村に残る老人は告げる。 「三度目を聞くな」 三度目を聞けば、 声はもう、 自分のものではなくなる。 やがて二人は、 音無村でかつて行われていた《返名》の儀式へ辿り着く。 村人たちが《音無様》と呼んだものは、 願いを叶える神ではなかった。 ただ、 悲鳴も。 泣き声も。 争いも。 祈りも。 名前も。 「うるさいもの」を区別なく消してしまう何か。 そして、奪われた名を返してもらう方法はひとつだけ。 別の誰かの名前を差し出すこと。 ひとつ入れれば、 ひとつ返る。 そんな救済を、 リオナは拒絶する。 「嫌。誰の名前も入れない」 そのとき。 三度目の鈴が鳴る。 これは、 名前を呼べない村で、 声だけを頼りにしていた二人が、 最後には声すら信じられなくなる物語。 そして―― ある記録官が、 自分の名を失ってまで、 誰かの名を守ろうとした記録。 《音》《名前》《沈黙》をめぐる民俗怪異譚。 ※公式サイト先行公開、小説家になろう平行連載

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カクヨム
カクヨム2026/08/31
  • 現在の作品聞いてはいけない鈴 ―三度目が鳴れば、あなたの声はもうあなたのものではない―