あらすじ
【注意】本作はカドコミ漫画原作コンテストの応募作品です。
そのため、漫画原作脚本の形式で執筆しています。
建武三年五月、桜井の宿。
太平記によれば、楠木正成はここで嫡子正行を河内へ返し、
湊川へ下って死ぬ。
返さなかった。
葦簀の陰に座っている十一歳を、しばらく見ていた。
それから弟を呼んで、こう言った。
正成「正季、ワシ、ハラ痛くなってきた」
書き上がった書状には、元弘以来の古疵が俄に痛むとある。
体調万全にてあらためて馳せ参ずる所存、と。
――楠木正成、桜井より帰路につき候。恐惶謹言。
千二百余騎が向きを変え、和泉の旗は和泉へ、河内の旗は河内へ、
紀伊の旗は紀伊へ散っていく。
湊川には、誰も来なかった。
道草だと言って、男は泉州の城を一つずつ回りはじめる。
茶を飲み、田の話をし、血判を一枚ずつ受け取り、
去り際に必ず同じことを言う。
正成「足利が寄せたら降れ。こんな紙切れのために死ぬなよ」
寺に僧を出させ、街道に柵を組ませ、三年が過ぎる。
そして延元四年秋、東高野街道に二万、紀州街道に一万。
北の城は、言われた通りに降った。
ただ一人、和泉八木城の岸和田治氏だけが、降らなかった。
治氏「降れ言われて降ったら、あいつの言うた通りやろが」
八百で、三日。