あらすじ
高校時代、ハードロック好きのギター少年だった多田野景、18歳。
高校最後の春、生まれて初めて生のオーケストラを聴いた彼は、その圧倒的な音に心を奪われた。
そして大学進学を機に、東京・高田馬場へ。
「せっかくなら、今度は自分があの中に入ってみたい」
そんな軽い気持ちで、大学の管弦楽団に入団する。
担当は――ヴァイオリン。
当然、経験はゼロ。
待っていたのは、想像した華やかなオーケストラ生活とは程遠い、地味で過酷な基礎練習の日々だった。
何度弾いても綺麗な音が出ない。
曲を弾けるようになる気配もない。
「……これ、俺が思ってた大学生活と違わないか?」
何度も辞めようと思う景。
それでも彼が楽器を置かなかったのは、一緒に入団した仲間たちと過ごす時間が、いつの間にか大切になっていたからだった。
同期の初心者チェロ奏者、大野桜子。
少し地味だけど、笑うと不思議なほど魅力的な彼女は、なぜか景に思わせぶりな態度を見せてくる。
そして景が憧れる、2歳年上のフルート奏者、中野メグミ。
柔らかな茶髪に華やかな美貌。
ふんわりとした大人の雰囲気を持つ、景にとって眩しい存在だ。
さらに、同じ農学部で隣の部屋に住む親友・大森崇。
彼は桜子に淡い想いを抱き始めていた。
大学生活。
音楽。
友情。
そして、まだ誰も答えを知らない恋。
昨日まで弾けなかった音が、今日は少しだけ鳴る。
昨日まで知らなかった感情が、少しずつ胸の中で形になっていく。
これは、名古屋から東京へ出てきた18歳の青年が、初心者からヴァイオリニストへと成長しながら、仲間たちと過ごす四年間の青春物語。
――あの春、僕らはまだ、自分たちの未来を知らなかった。