あらすじ

「あの方は命の恩人だ。お前が耐えろ」 十二年前、戦で死にかけた夫を助けたという女が、この屋敷で暮らしている。 上座に座り、冬の薪を選び、夫の名で人を呼ぶ。 わたくしが何を申し上げても、夫の答えはいつも同じだ。 ――恩人なのだから、お前が耐えろ。 承知いたしました。では、その恩、本日から全部お返しいたします。 ヒルデ、三十六歳。この家の〈返礼差配〉を十二年、一件も落とさずに務めてきた女である。 誰に、何を、いつ、誰の手で返すか。それを決めるのが、この家の女主人の仕事だ。 翌朝、三年ぶんの薪が前庭に積み上がった。あの方の生家へ、である。 次は弟の学費。その次は母の薬。そのまた次は、焼けた生家そのもの。 ひとつ返すたび、あの方がこの屋敷にいる理由が、ひとつ消えていく。 断れば「恩人ではない」ことになり、受け取れば「もう返してもらった」ことになる。 ――ところで旦那様。あなたはご存じないのでしょう。 あの夜、あなたを運んだのが、誰だったのか。

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小説を読もう2026/08/31
  • 現在の作品「あの方は命の恩人だ、お前が耐えろ」と仰いますので、その分の恩は私が全部お返しいたします ~最後の一件をお返しした日、あの方がこの家にいる理由も、なくなります~