あらすじ
「春菜は、本当にいい子だよ。でも、ときめきがなくなったんだ」
三年間付き合った恋人に、そう告げられた白石春菜。
失恋した春。
彼女は、白い服を着て街を歩いていた。
泣いた後は白を着なさい。
昨日までの自分を、少しだけ洗ってくれるから――。
けれど今年の白は、春菜の心を少しも軽くしてくれなかった。
そんな彼女が偶然出会ったのは、表参道の小さな香水店を営む調香師・香月亮。
「忘れるための香りは、僕には作れません」
そう言った亮は、失恋を消す香りではなく、
「思い出しても痛くない場所まで連れていく香り」
を春菜のために作り始める。
白い花。
洗いたてのシャツ。
眠れなかった夜。
白ワイン。
春の光。
少しずつ重ねられていく香りとともに、春菜もまた、元恋人の前では言えなかった本音を口にし、自分自身を取り戻していく。
そして完成へ近づいていく、春菜だけの香り――《White Blend》。
けれど春菜はまだ知らない。
「一人のための香りなんて商品価値がない」
かつてそう言われ、自分の仕事を信じられなくなった亮もまた、春菜との出会いによって救われ始めていたことを。
失恋した女性と、自分の才能を信じられなくなった調香師。
傷を消すのではなく、抱えたまま新しい春へ歩いていく二人の、大人の再生ラブストーリー。
――過去は、消えなくていい。
いつか思い出しても、もう痛くなくなる日が来るから。
全5話・完結。