あらすじ
かつて私に向けられていたはずの、あの温かい瞳。
その視線が隣の女性へ向けられた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。絶望は一瞬で激しい怒りへと変わり、冷え切っていた足元に熱が戻る。
「ちょっと待ってよ!」
人混みを押し分け、二人の前へ立ちはだかった。突然のことに、彼は目を丸くする。
「なんでいるの……?」
「なんでって、何それ! 私に何も言わずに消えて、別の女と楽しそうにデート? ふざけないでよ!」
アスファルトの上で怒声を張り上げる私に、彼の表情が険しくゆがむ。隣の女性が怯えたように彼の腕を掴むと、彼は彼女をかばうように前に出た。
「やめろよ、周りの迷惑だろ。もう俺たち、終わったんだよ」
「終わってない! 私たちはちゃんと話し合ってないじゃない!」
「話し合うことなんてない! お前のそういう感情的なところが嫌だったんだ!」
容赦のない言葉が突き刺さる。冷たい駅前、行き交う人々の好奇の視線に晒されながら、私たちは激しく言葉をぶつけ合った。かつて愛し合った時間は見る影もなく、醜い罵り合いだけが虚しく響き渡っていた。