あらすじ
「アイリーン・ヴァルトシュタイン。お前との婚約を破棄する」
王城の大広間、大勢の貴族が見守る中、王太子セドリックは高らかに宣言した。真実の愛を見つけたのだと、男爵令嬢を腕に抱いて。
公爵令嬢が公開処刑のごとく捨てられる——テンプレのような光景。けれどアイリーンは、顔色ひとつ変えず、完璧な微笑を浮かべたまま心の中でこう呟く。
(……で、その婚約契約、誰が精査したか覚えてる?)
彼女の前世は、日本の敏腕契約法務担当。コンマ以下の条項も見逃さず、抜け穴ひとつで会社を救い、また潰してきた——業界で『契約書の魔女』と呼ばれた女だった。
違反者に魔法的ペナルティを課す、この国の絶対の『魔法契約書』制度。その面白さに気づいたアイリーンは、5年前、まだ幼き頃に王家との婚約契約書を、こっそり『改訂』しておいたのだ。
『婚約を一方的に破棄した側は、相手方が起草・改訂した全契約条項を無効化する権利を、相手方に付与する』——第七条第三項。
破棄を“言い出した”のは、王太子の方。第一幕は、すべて彼がお膳立てしてくれた。
金鉱山の権利、不正融資、王家財政の担保条項。羊皮紙が淡く光り始め、契約が履行されていく。
泣き崩れることなど、あるはずもない。取締役会でも法廷でも、一度も表情を崩したことのない女なのだから。
契約書で王家を破産させる、痛快無双の悪役令嬢転生譚。コンマ以下の一文字も、見逃さない——それが『契約書の魔女』ですもの。