あらすじ
「これで、朝から晩までわたくしの侍女ね」
わたくしは、拾ったものに名前をつける癖があります。
犬を亡くした日、門の外に男が倒れておりました。後宮に男を置けば、この宮の者は全員死にます。ですから、名を奪いました。前の玲の籍が、ちょうど空いておりましたので。
髪を結い、紅をひき、耳に穴を開けて、わたくしの耳飾りを挿しました。
衾も、手鏡も、紅入れも、わたくしの使いかけを回しました。
半月で、あの子の部屋はわたくしの匂いになりました。
よくできた侍女です。わたくしが仕立てたのですから。
――ですから陛下、どうかその子を、そんな目でご覧にならないでください。
【登場人物】
蘭華(らんか)
……二十一歳。西の宮の妃。扇と、白木蓮の下に埋めた犬。
可愛がるということを、物を置くことでする。拾った男に名をつけ、女官に仕立て、自分の耳飾りまで挿した。渡したものを、返せとは言わない。
玲(れい)
……二十三歳。門の外で拾われた男。首に細い環、耳に妃の耳飾り。
三月で女官になった。簪を選ぶのに一刻迷う。この後宮に来た理由を、まだ誰にも言っていない。
秋姑(しゅうこ)
……四十過ぎ。西の宮の女官長。三十年、この宮にいる。
嘘はつかない。訊かれたことにしか、答えない。だから、誰も気づかない。
杏娘(あんじょう)
……十五歳。同僚の女官。饅頭を三つ食べる。玲の変化に、宮でいちばん早く気づく。
瓊玉(けいぎょく)
……東の宮の妃。いつも同じ角度で微笑む。言っていないことにして、言う。
煌曜(こうよう)
……この国の皇帝。妃の顔より、庭の壺のひびを見る。玲の名を、一度だけ訊いた。
全四十三話・完結済