あらすじ
国が滅びた。
残ったのは、17隻の船と、行き場を失った12,000人の民だった。
17歳のエーリヒ・ファルケンには、誰にも明かしていない秘密がある。
彼には、かつて日本で天体物理学者として生きた男の記憶があった。
星を観測し、測定器具を設計し、数字から見えない現象を読み解いてきた前世の知識。
その知識によってエーリヒは、誰よりも早く異変に気づく。
二つの月の軌道がずれている。
海が、消え始めている。
そして、本来なら海によって隔てられているはずの大陸から、最強の陸軍国家グランツライヒ帝国が押し寄せた。
巨大な六脚装甲獣。
何万もの歩兵と騎兵。
街道と補給網によって大陸を支配する、圧倒的なランドパワー。
祖国ノルトゼーア王国は、わずかな日数で崩壊した。
父を失い、故郷を失い、海へ逃れたエーリヒたち。
だがその逃亡の果て、霧の向こうに存在するはずのない巨大な「島」を発見する。
全長8キロ。
森がある。
湖がある。
街がある。
誰も理解できない機械が眠っている。
そして――その島は動いた。
それは何千年もの間、世界の海を漂い続けていた超古代文明の巨大船《ヴァンダラー》だった。
エーリヒは決意する。
もう、奪われる土地はいらない。
帝国が100万の兵を持っていようと、海の上までは歩いて来られない。
ならば――
「海そのものを、俺たちの国にする」
こうして誕生する、国土を持たない海洋国家《ゼーライヒ》。
漂流する巨大船を首都とし、人を乗せて飛ぶ巨大鳥ヒンメルアドラーを空へ放ち、船と交易と情報によって世界の海へ進出していく。
だが、帝国にも一人の天才がいた。
若き将軍オスカー・フォン・グライフェンハルト。
海と物流を支配しようとするエーリヒ。
土地と街道と河川を支配するオスカー。
シーパワーとランドパワー。
二つの異なる力が激突したとき、亡国から始まった戦争は、やがて世界そのものを二分する。
エーリヒは世界を征服したかったわけではない。
家族を守りたかった。
仲間を守りたかった。
二度と故郷を奪われたくなかった。
ただ、それだけだった。
しかし港を守るために海を支配し、
海を守るために敵国を滅ぼし、
戦争を終わらせるために世界の流れそのものを握ったとき――
人々は彼をこう呼ぶことになる。
――《漂海の征服者》と。
これは、亡国の少年が、
領土を持たない国家を築き、
海から世界を征服するまでの物語。