あらすじ
幕末。
新選組で忍び・諜報を務める千歳は、吉原で一人の少女と出会う。
名は志乃。十八歳。
人の世の常識にはひどく疎いくせに、山、薬草、毒、傷の処置については千歳よりも詳しい。
そして彼女は、ごく当たり前のことのように言った。
「妖怪さんに教えてもらいました」
当然、千歳は信じない。
だが、見えないはずの何かを避ける志乃。
誰も知らない山道を知る志乃。
何もない場所へ話しかけ、その直後に実際の危険が回避される。
説明できない事実が、少しずつ積み重なっていく。
人と妖怪。
新選組と新しい時代。
正確な報告と、それを受け取る者の判断。
何が正しいかを見極めることには慣れていた千歳だったが、やがて気づく。
相手について何もかも調べることと、
本人が何を望んでいるのか知ることは、同じではない。
そして、どれほど正確に危険を伝えても、
その情報が誰かの判断へ届かなければ、人は守れない。
何でも器用にできた男が最後に手に入れるのは、
正解ではない。
名前を呼べば振り向く人がいたという、
小さな記憶だった。