あらすじ
二十三年間、一日も休まなかった男が、初めて休みを取ると言った三日後に死んだ。
北関東の小さな新聞販売店。三木千尋は東京の仕事を辞め、父の入院をきっかけに実家へ戻って一年半になる。毎朝二時半に店へ出て、同じ順に同じ家を回る。順路という言葉が、彼女にとって世界の形そのものになりつつあった。
十月十七日の昼、古参配達員の沢渡邦彦が自宅で遺体となって発見される。死亡時刻は前夜から当日朝までとしか絞れない。警察はその幅を、店の記録で埋めていく。防犯カメラは、その朝の一時五十分に沢渡が入店し、四時五分に原付を返して歩いて帰る姿を捉えていた。そして沢渡の区域には、その朝、確かに新聞が配られている。
犯行は四時十五分以降。そう組み上がった時間のなかで、千尋の弟だけが、深夜の空白を説明できずにいた。
順路は写せる。だが、順路表に書かれていない癖は、写せない。