あらすじ
釧路で生まれ育った高校生、朝倉湊。
彼は釧路の夕日や霧、海、湿原、そしてそこに暮らす人々が好きだった。
けれど同時に、
「釧路にはもっと面白いものがあるんじゃないか」
という、漠然とした物足りなさも感じていた。
そんなある日、湊は人形浄瑠璃と出会う。
舞台の上で人形を動かしていたのは、黒い衣装をまとった人たちだった。
彼らは確かに舞台にいる。
それなのに、観客は彼らを見ない。
人形を一番美しく見せるために、自分自身を消している。
その姿に惹かれた湊は、やがて大阪へ向かう。
そこで待っていたのは、華やかな舞台ではなく、何年もの修業と失敗だった。
そして年月が流れ、湊はいつしか「釧路を盛り上げる」という夢さえ忘れてしまう。
しかし2026年。
熊本の清和文楽館で行われた復興のための公演に参加した湊は、文化が人と人をつなぎ、失われかけた場所にもう一度人が集まる瞬間を目にする。
そこで湊は、自分が昔抱いていた夢を思い出す。
そして故郷・釧路へ帰る。
ただし、今度は一人で街を変えようとはしない。
仲間と、地域の人たちと、そして次の世代と一緒に、
「釧路で人形浄瑠璃を続けられる場所」
をつくろうとする。
最後に湊が立つのは、舞台の中央ではない。
舞台の後ろ。
黒衣として。