あらすじ
極道の世界で生きる男・榊原恭介には、何よりも大切にしている兄弟分がいる。
その名は、駄犬怜王。
喧嘩っ早くて、口が悪くて、死ぬほど素直じゃない男だ。
少しからかえば殴られる。頭を撫でれば蹴られる。「可愛い弟分だ」と言えば、殺意のこもった拳が飛んでくる。
「誰がテメェの弟だ、クソ兄貴」
「兄弟分なんだから似たようなもんだろ?」
「次言ったら殺す」
「お前、昔から照れるとすぐ殴るよな」
「死ね!」
――今日も仲良く、腹に一発。
それでも恭介は怜王を可愛がる。
誰より乱暴なくせに、恭介が怪我をすれば真っ先に駆けつける。
酒を飲みすぎれば悪態をつきながら介抱し、敵に囲まれれば何も言わず背中を預ける。
そして恭介が死にかけた夜には「勝手に死んだら、俺が殺すからな」と、泣きそうな顔で胸ぐらを掴んできた。
怜王の拳も、蹴りも、罵倒も。長い付き合いの恭介には、もう全部翻訳できてしまう。
だから今日も恭介は笑う。
「怜王、お前ほんっと俺のこと好きだな」
「……歯ァ食いしばれ、恭介」
「兄貴って呼んでくれよ」
「死ね」
血は繋がっていない。
生まれた場所も、育った環境も違う。
二人が家族であることを証明するものなんて、交わした盃くらいしかない。
それでも構わない。
生きるなら、一緒に生きる。背中を預けるなら、こいつがいい。
そしていつか死ぬその日まで――こいつの兄弟でいたい。
これは、愛情表現が致命的に下手な暴力系ツンデレ・駄犬怜王と、
そんな兄弟分が可愛くて仕方がない榊原恭介の物語。
「なぁ、怜王」
「あ?」
「俺たち、爺になっても兄弟なんだろうな」
「……当たり前のこと聞いてんじゃねえよ」
そう答えた怜王は、照れ隠しのように恭介の脛を蹴った。
血より濃いなんて言わなくていい。
死ぬまで隣にいれば、それで十分だ。