あらすじ
「レオノーラ・アシェンヴァルト! 貴様との婚約を、ここに破棄する!」
卒業記念夜会。公爵令嬢レオノーラに突きつけられたのは、いじめの断罪だった。
だが彼女は、凍りついた大広間でただ一人、拍手をした。
「お見事ですわ、殿下。三日前にお渡しした原稿の、一字一句その通りでございましたわ」
王太子ジークハルトは、文章が書けない。
公式書簡も、演説草稿も、外交の宣誓文も──この八年、そのすべてを書いてきたのは、婚約者であるレオノーラだった。
今夜の、婚約破棄の口上さえも。
そして殿下が新しい恋人に宛てた、四十七通の恋文も。
「あの手紙に書いた言葉は、すべてわたくしのものでしたわ。──宛名だけが、わたくしのものではありませんでしたけれど」
八年分の原稿の余白には、三度、赤字で警告が書かれていた。
殿下は、ただの一度もお読みにならなかった。
代筆令嬢の、最後の仕事が始まる。