あらすじ
勇者アレクの一行は、本当に強かった。
聖剣で敵陣を突破する勇者、近衛騎士をしのぐ剣士、大魔法を操る賢者、致命傷さえ治す聖女。
ガレス・ヴァーンは六年間、彼らと共に戦いながら、食料、水、馬、荷車、装備、野営地、補給路、負傷者の後送まで引き受けてきた兵站責任者だった。自身も長槍と風魔法を操る一流の戦士だが、一人の強者だけでは軍を動かせないことを誰よりも知っている。
魔王軍の重要拠点、カラン砦を攻める大規模遠征。
提示された計画を見たガレスは、砦を落とすこと自体は可能だと判断した。しかし、敵が倉庫を焼き、橋を落とせば、百人を超える兵士と負傷者を連れて帰る手段がない。
ガレスは補給所、予備の荷車、橋梁資材、後送班を含む代案を示す。だが、敵の増援が迫るなか、勇者たちは一日でも早い出発を選んだ。
どちらが臆病で、どちらが無謀なのか。そんな話ではなかった。
勇者には、今すぐ救わなければならない人々がいる。ガレスには、自分の計画で死なせてはならない兵士がいる。
「俺は降りる。勝算は認めるが、この遠征に責任は持てない」
追放でも、恨みに任せた決別でもない。
自ら勇者パーティーを離れたガレスは、仕事を求めて辺境へ向かう。そこで出会ったのは、元騎士、獣人の斥候、野戦治療師、若い徴募兵、荷車を知り尽くした隊商の男。誰も勇者ほど強くはないが、それぞれに任せられる仕事があった。
食料を切らさず、無理な行軍を避け、戦う前に退路を決める。負傷者を運ぶ者まで残し、全員が生きて帰れる条件を整える。
半壊した灰鷹砦から始まった小さな隊は、やがて王国で最も遠くへ行き、最も多くの兵を連れ帰る遠征軍へ成長していく。