あらすじ
二〇二三年、カナダ東部。プリンス・エドワード島。
ジェイムズ・リデルは二十二歳。カナダ陸軍の将校になる道を自ら断ち、妻ヘンリエッタとともに、打ち捨てられた二百エーカーの土地に立った。
暗渠は錆び、道は藪に呑まれ、嵐に倒された木々が行く手を塞いでいる。電気はない。井戸もない。隣人もいない。道路から敷地の高台まで千七百フィート、すべての資材を人の手で運ばねばならない。
彼の手にあるのは、一族が二百年にわたって手放さなかった蔵書と、士官が読むべき書物が教えた技——地形を読み、水を見極め、家畜と人が住める場所を定める、かつて帝国の日常であった営み。その営みを生んだ文明は、もはやその存在を認めていない。
これは領地経営の物語である。ゲームの画面の中ではなく、赤土と霧と黒蠅のなかで。
家を建てるだけではない。家——世代を超えて続く一族の座——を興すことの物語である。群れを養い、土地を治め、寄る辺なき者に門を開き、辺境に炉を据えること。かつてはそれを「入植」と呼んだ。その言葉を生んだ国は、もはやそれを口にしない。
剣を帯びた将校の末裔が、掛矢とフェンス用プライヤーを手に、忘れられた務めを取り戻す。
辺境の炉(The Hearth on the Marches)第一部
本作は英語で書かれた小説を、著者自身が日本語に訳したものです。