あらすじ
午後七時を過ぎると、診療室は急に広くなったように感じられる。
ついさっきまで、タービンの甲高い音と吸引器の低い唸りが重なり、その隙間を縫うように受付の電話が鳴っていた。患者が椅子から立ち上がる気配や、スタッフが短い言葉を交わす声、金属の器具がトレーに触れる乾いた音までが部屋の中に満ちていたのに、最後の患者を見送り、玄関の自動ドアが閉まると、それらは一つずつ消えていった。残ったのは、昼間なら気にも留めない空調の低い唸りと、消毒薬の匂い、それから妙に広く見える五台の診療台だった。
55歳、バツ2、歯科医師の診療後の心象を描いてみました。