あらすじ
人類との戦争に敗れ、死んだはずの魔王ゼルヴァン・クローディスは、川辺で一人の少女に拾われた。
彼女の名はティレシア・ヴァネリス。
政争によって辺境へ追いやられた王女であり、傷ついた男を放っておけない、善良で穏やかな少女だった。
少なくとも、そう見える。
ティレシアは強大な魔力を持たない。
軍を率いる将でもない。
ただ、人を見ることと、国という仕組みを理解することに関してだけ、致命的なほど優れていた。
人は何を欲し、何を恐れ、何を守るためなら自分から動くのか。
兵站が一つ止まれば、次に何が不足するのか。
一人の役人が判断を変えれば、その先で市場や軍や国家がどう動くのか。
彼女にとって、それらはすべて一つにつながっている。
一方のゼルヴァンは、国家が総力を挙げなければ止められなかった最強の魔族。
圧倒的な力を持ちながら、戦うべき時と退くべき時を知り、自分の民を最後まで捨てなかった王だった。
世界を壊せる男と、世界の壊れ方を知っている女。
けれど二人が最初にすることは、国を奪うことでも、復讐することでもない。
傷ついた人を助ける。
食べるものを探す。
眠れる場所を作る。
散り散りになった者たちを、一人ずつ見つけていく。
そうして小さな居場所を作るうち、やがて世界の側が二人を放っておけなくなる。
ティレシアは普段、驚くほど善良だ。
その方が人は傷つかず、物事もよく回るから。
だが必要なら、国を壊すことも、人の選択そのものを変えることもためらわない。
ゼルヴァンは、そんな彼女の底を読むことができない。
それでも目を逸らさない。
「善良で無害な王女」と、「人類に敗れた魔王」。
これは、世界からはじき出された二人が居場所を作り、その居場所を守るため、ついには世界そのものへ手を伸ばしていく物語。