あらすじ
明治という動乱の時代に、洋裁師として名を馳せた男がいた。その名は浅田健次郎。作り出すドレスはどれも美しく、上流階級がこぞって彼のドレスを求めたのだが、どうにも彼のドレスは、自分のために作られたのではないようだと感じる何かがある。そのわけを知る者はほとんどいなかったのだが、真実、彼のドレスは、たったひとりの女のために作られていたのだ。これはそんな男の少年期の話である。
明治二十年。健次郎が十五歳の頃である。明治維新で落ちぶれた商人の息子である健次郎は、母を赤子の頃に喪い、父と兄に疎まれながら生活していた。唯一優しくしてくれるのは、姉の初と幼馴染の鞠子だけ。鞠子は侯爵の娘でありながらも、兄以外の家族、使用人に虐げられながら生活しており、初を気にかけ、気にかけられ、鞠子とひっそりと寄り添い合いながら生きていた。
鞠子といつか結ばれることを夢に見ながら、銀座の街で簪などの装飾品を売る健次郎は、独逸に留学に行った経験のある鞠子の兄である孝弘の影響で、いつか鞠子にドレスを着せたいと願っていた。浅田の店でリボンを売ることを考え、そのアイデアを兄に盗られながらも、行き遅れの初の結婚を後押しする。しかしその初が、旦那に殴り殺されてしまう。
鞠子もまた、家族や使用人に殴り殺されてしまったら。そう考えた健次郎は、鞠子に結婚を迫る。それを拒否する鞠子は、生まれつき、身体に鱗が生える呪いがかけられていると明かすのだった。健次郎を不幸にしないために、ドレスや金剛石が欲しい、それを用意できる人でないと結婚しない、と言う鞠子に、健次郎は洋裁師になると告げる。洋裁師になったら、鞠子への愛を信じて結婚してほしいと。
これはたったひとりの愛する人のためにドレスを作る少年の物語。
※明治時代をベースにしておりますが、実在の人物、店舗とは関係はございません。
※やや時代考証を間違えているところがあります。ご了承ください。