あらすじ
【あらすじ】
愛する夫や子供たち、そして父の命すら相次いで奪われた大田垣蓮月。
血と雨の混ざる墓前で絶望の底を這いずり回った女は、剃髪して黒い墨染の衣に身を包み、ただ静かに土を捏ね始めた。
男たちの浅はかな執着を断ち切る「前歯の伝承」、利権や喧噪の群がりを風のように去る「屋越しの蓮月」。
名声を逃れて移り住む洛北の静かな庵には、若き日の富岡鉄斎や野村望東尼、さらには新選組や過激派浪士たちまでが、吸い寄せられるように集まっていく。
やがて鳥羽・伏見の戦火が京を焼き尽くす中、官軍の総大将・西郷隆盛のもとへ届けられた一葉の短冊――「あだ味方 勝つも負くるも 哀れなり」。
すべてを奪われながらも、世界のあらゆる愛しさと切なさをその両腕で抱きしめ、ただの土へと還っていった女が、最後に仰ぎ見た「くもらぬ月」とは。
【本書の改稿・新装ポイント】
初稿が持つ物語の熱量やストーリー展開はそのままに、歴史叙述技法(鳥瞰と都市史的解説、三層視点の導入、人間と時代の往復)を取り入れ、より深く、より洗練された形で再構成いたしました。
鳥瞰と都市史的解説: 幕末京都の社会構造、近世における尼僧・女性文化人の立ち位置、戦乱期の治安動向を俯瞰する視点を挿入。
三層視点の導入: 【人物の現在】【語り手の観察】【歴史の俯瞰】を自在に往復し、蓮月が到達した「無私」の境地と決断の意味を立体化。
人間と時代の往復: 神聖化された「聖者像」にとどまらない、狂騒の時代を泥にまみれて身等大に生き抜いた人々の群像劇と歴史の交差点。
大きな歴史のうねりと、小さな人間の生き様が交錯する歴史小説の醍醐味を、一気読みでぜひお楽しみください。