あらすじ
モンテネグロ・ペラストを舞台にした20代30代女性向け国際恋愛の短編小説。
前後編で完結する読み切り作品です。
30歳の日本人パッケージデザイナー、ミオは、長く担当してきた企業との契約終了を機に、一か月だけ仕事を減らし、友人から借りたペラストの部屋で暮らし始める。
東京へ戻れば、大手ブランドから六か月の専属契約を受けられる。しかしその条件は、自由に選んできた小さな仕事をほぼ全部手放すことだった。
到着翌朝。
湾に面した石段で靴を脱いだミオの片方のサンダルが、通り過ぎた船の小さな波にさらわれる。
それを長い木棒で拾い上げたのが、古い家々の木製窓や鎧戸を修復する32歳の職人、ヴークだった。
無愛想ではない。むしろ親切なのに、必要以上には近づかない。
だが、翌日も、その翌日も出会う。
朝のパンを買う時間。夕暮れの石段。暑さが引いた後の湾岸。ファシナダを控えて親戚たちが集まり始めた家の中。
やがて二人には、夕方、聖ニコラ教会の鐘が鳴ったら海沿いを少しだけ歩くという約束していない習慣ができる。
ミオが東京での仕事を選ぶ期限は、ファシナダの二日後。
一方ヴークも、兄妹で所有する古い家をこの夏で手放すか、自分が買い取るかを決めなければならなかった。
どちらも「恋を選べば人生が解決する」状況にはいない。
だからこそ、好きだと気づいてから初めて、
相手のために残るのではなく、自分の人生を選んだうえで、そこに相手をどう残すのか
を二人で決める恋にする。