あらすじ
【あらすじ】
文政三年、越後。
夫との離縁、二人の子との死別を経て、自らの悲劇を美学として纏い生きる若き尼僧・貞心(誠)。
その前に現れたのは、世俗を離れ、ただ在るがままに生きる七十の老僧・良寛であった。
一首の手まりの歌から始まった二人の交流は、師弟であり、歌の友であり、魂の理解者としての絆を深めていく。
しかし、良寛の死後、遺された言葉と向き合った誠の胸に宿ったのは、単なる追慕ではなかった。
『蓮の露』の編纂、そして後年の木版上梓――。
泥にまみれた逸話や生々しい弱音を容赦なく削ぎ落とし、自らの朱筆で「美しい聖人・良寛」を作り上げていく誠。
生身の良寛を愛しながらも、その生の記憶を自らの手で消し去っていく凄絶な「編集の業」。
「私は、和尚様を私の手で殺してしまったのではないか――」
美しき歌集の裏側に隠された女の静かな闘いと、木版刷りとなって世に放たれていく言葉のゆくえ。
歴史の激流と越後の風土の中で、二人だけの永遠を刻み込もうとした女の、愛と執着の全貌。
【本書の改稿・新装ポイント】
初稿が持つ物語の熱量やストーリー展開はそのままに、歴史叙述技法(鳥瞰と都市史的解説、三層視点の導入、人間と時代の往復)を取り入れ、より深く、より洗練された形で再構成いたしました。
鳥瞰と時代・民俗的解説: 近世村社会における「姉さ庵主」の存在、近世出版文化が果たす「史実の固定化」、越後長岡の風土や文人ネットワークを俯瞰する視点を挿入。
三層視点の導入: 【人物の現在】【語り手の観察】【歴史の俯瞰】を自在に往復し、「言葉を選ぶ・削る」という行為の持つ歴史的・文学的意味を立体化。
人間と時代の往復: 美しい歌の唱和にとどまらない、編集者としての貞心尼の葛藤と、近代へとつながる「聖人・良寛像」生成の裏側を描く重厚な群像劇。
大きな歴史のうねりと、小さな人間の生き様が交錯する歴史小説の醍醐味を、一気読みでぜひお楽しみください。