あらすじ
幼なじみの湊は、昔から優しい。
混んだ江ノ電では私が押されないように立ってくれる。
疲れていれば歩く速度を落としてくれる。
無理して笑えば、誰より早く気づいてくれる。
だからこそ、美沙には分からなかった。
――その優しさは、幼なじみだから?
それとも、私だから?
鎌倉の高校へ通う美沙と湊は、小さい頃からずっと一緒だった。
毎朝、稲村ヶ崎駅で待ち合わせて江ノ電に乗る。
放課後は一緒に帰り、時々海を見る。
誰より近いのに、恋人ではない。
美沙はいつしか湊を好きになっていた。
けれど告白して今の関係まで失うのが怖くて、「幼なじみ」のふりを続けていた。
そして、それは湊も同じだった。
雨の日の相合傘。
浴衣で出かける七里ヶ浜の夏。
少しずつ増えていく嫉妬とすれ違い。
近すぎるからこそ言えなかった二人の気持ちは、夏が終わるにつれて、もう隠せなくなっていく。
「私は、湊にとって何なの?」
そして迎える八月三十一日。
二人がいつも海を見てきた稲村ヶ崎で、湊はようやく口にする。
「美沙のこと、好きだよ」
幼なじみだから失いたくなかった。
幼なじみだから、好きと言えなかった。
鎌倉、江ノ電、七里ヶ浜、稲村ヶ崎――。
ひと夏を舞台に描く、近すぎる二人のじれったい両片想い青春ラブストーリー。