あらすじ

携帯電話もメールも、まだ手元になかった1980年代。約束は手帳の端に書き、返事は留守番電話に吹き込んだ。十人の「私」の、恋と、その手前と、そのあと。鳴っている電話に出るか、出ないか。今夜のうちに言うか、言わずに帰るか。一編ずつ完結する十の短編を、アルバムの曲順のように並べました。どの編から読んでもかまいません。十人の「私」のなかには、同じ夏を別の側から見ていた人もいます。ある編にいた誰かが、別の編にふらりと姿を見せることも。 ■MIND MIRAGE 学生時代から九年、恋人とは呼ばないままの相手がいる。二十七歳の私は、留守番電話に吹き込まれていく彼の声を聞きながら、受話器の手前で指を止める。 ■Friday Elsewhere 金曜の夜は、彼の部屋へ行く日と決まっていた。付き合って四年が過ぎた二月、彼の町へ向かうホームの階段で、足が止まる。その夜、私は自分の町の小さなバーで、誰の恋人でもない時間を過ごす。 ■Seven Days Away 「今年の夏は?」と聞くと、恋人の返事はいつもどおり「仕事だから」だった。同じころ親友に誘われて、私は高原のコテージで七日間を過ごす。隣のコテージの二人組と知り合い、そのうちの一人と話すうちに、自分でも気づいていなかった本音を口にしていた。部屋の白い電話には、一度も触れていない。 ■LOVE WINNER TAKES NOTHING 黙っていても男たちが寄ってくる私を、あの人だけは選ばなかった。あの人が見ていたのは、私のいちばん近くにいた親友だった。だから、間違っているのはあの人のほうだ。 ■Kissing in the Crowd 何の予定もない土曜日の夕方、三年会っていなかった先輩から電話がかかってくる。年に一度の祭りで、人に埋まった街。はぐれないようにと、彼が私の手をつかむ。押されるたびに、私はその手を握り返す。 ■Tender Days in the Green 大学三年、恋をしたことのない私は、乗り気でないまま遠い高原の合宿へ出かける。消灯後の食堂で開かれる、内緒の飲み会。大阪弁で甘えてみせると、宿で食事を作っている彼は、困ったように笑う。 ■He Had to Be Untouchable 帰り道に何となく手をつないだ人と、夏の終わりに、ようやく気持ちを確かめ合った。高校からの親友から電話がかかってきたのは、その直後だった。 ■Remember My Future 同棲して三年。恋人が兄の結婚式で帰省した三連休、女友達と飲んだ帰りにひと駅手前で降りた私は、誰もいない日曜深夜の公園で、もう一本缶を開ける。こんな気分になるのは、何年ぶりだろう。 ■Last Summer Highway 「好きだけど重い」と言われて、恋は終わった。大学二年の夏、50ccのスクーターで遠いバイト先へ通う。部で耳コピ用に渡されたカセットに、失恋を歌う曲がある。私はその曲を、途中で止めてしまう。 ■Blue in My Frame 入社してすぐ、高原リゾートの路地にある夏だけの画廊を、ひとりで任された。平日の暇な午後、青いシルクスクリーンの前にまっすぐ立った同い年くらいの男に、私は研修で覚えた売り文句をひとつも言えない。 ※各編3〜4話で完結します。

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カクヨム
カクヨム2026/09/18
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