あらすじ
2046年、7月。 瀬戸内に浮かぶ淡路島——かつて神々が最初に生んだと伝えられる島に、白い巨大なドームが建っている。 明日、ここで世界初のセリ市が開かれる。 上場されるサラブレッドは、174頭。集まる金は3000億円。世界中のバイヤーが、海を越えてやってくる。 だが、崖の上の小さな牧場から出品されるのは——たった1頭。
生産者の名は、灘修司。48歳。 かつて「データの異端児」と呼ばれ、名門に追われた男。 その相棒は、フジオウカ。 30体の量子AIの中で唯一、何の実績も持たない——「出来損ない」と呼ばれる演算体。
そして灘だけが知っている。 このセリで売上13位に入れなければ、フジオウカは消される。 理由も、行き先も、知らされないまま。
——だから、やることは一つだ。 「勝つんじゃない。——勝たせる。全員まとめて、だ」
■ 世界設定 2030年代、量子コンピュータの実用化が世界を変えた。組み合わせの問題が解け、人類の暮らしから「間違い」が消えていった。 2035年、その頂点に一つの超量子AIが生まれ——2037年、その超量子AIは30の自律型量子AIを生み出した。 30のAIは、自らの意思で全世界の牧場から統合先を選んだ。牧場がAIを選ぶのではない。AIが、牧場を選ぶ時代。 彼らは8年をかけて、生身のサラブレッドを造り上げた。1体のAIが計算し切れるのは、わずか10頭。神々が全演算を注いだ結晶たちが、2046年、史上初めて一つの市場に集う——国生みセール。 セリは6つのラウンドで進み、落札額は生産AIごとに合計され、リアルタイムでランキングになる。 世間には、名誉の順位表にしか見えない。 その13位に、命の線が引かれていることを知る者は——ほとんどいない。
■ 主な登場人物
灘 修司(なだ・しゅうじ/48歳) 国生ファーム場長。データ分析を武器に名門で頭角を現すも「馬は数字じゃ走らん」と27歳で追われる。淡路島の小さな牧場で再起し、36歳でダービー馬を輩出——だが量子AIの時代が来ると、今度は「旧世代」の烙印を押された。二度、時代に弾かれた男。娘が一人いるが、牧場を離れて久しい。
フジオウカ 量子AI
30体で唯一、何の実績も持たないまま生きてきた「出来損ない」。どの大牧場とも組まず、なぜか潰れかけの国生ファームを自ら選んだ。「まだ誰も知らない答え」を探し続ける、遅すぎる演算体。
権田(ごんだ/70歳)
国生ファームの老厩務員。馬歴50年。数字は読めないが、馬の目を見れば「生きたがっとるか」がわかる男。
御崎 宗一郎(みさき・そういちろう/73歳)
北海道・日高の名門、御崎ファーム会長。かつて灘を追放した男は、量子AIの時代が来ると誰よりも早く伝統を捨て、30体の頂点に立つ王者ロードカイザーと組んだ。「伝統とは、勝ち続けるための器の名前です」
そして、他の29のAIたち
王者。策士。崖っぷちの隣人——30の量子AIには、それぞれの8年と、それぞれの戦い方がある。セリ市場で、彼らのすべてが交わる。
『ニンフルサグの2045』 灘とフジオウカが送り出す、たった1頭の上場馬。評価は174頭中、最下層。この仔が何者なのかは——どうか、本編で。
■ こんな方に
『半沢直樹』『下町ロケット』のような、逆境からの反撃劇が好きな方 競馬・血統・セリの世界に心が動く方 AIと人間の関係を、物語で味わいたい方 伏線が回収される構成美が好きな方
■ 更新について
初回にプロローグを含む3話を先行公開。以降は予約投稿で少しずつ更新し、2026年11月19日に完結します。 全3章+プロローグ・エピローグ。
第1章「選ばれなかった者たち」、第2章「十三番目の椅子」、そして第3章——タイトルの意味が明かされる場所まで、どうか見届けてください。
■ おことわり
本作はフィクションです。実在の競走馬の名前が「歴史上の名馬」として世界背景に登場しますが、登場する人物・牧場・団体・AI・出来事はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。