あらすじ
夏休みの朝。
写真部の一年生、江渕 創(えぶち はじめ・15歳)は、いつもより少し早く旧校舎の部室へ向かう。
理由はひとつ。
そこには、憧れの三年生――日高 玲奈(ひだか れいな・17歳)がいるから。
ファインダー越しなら見つめられるのに、目が合えばすぐに逸らしてしまう。
指先が触れただけで動揺し、暗室では隣にいる玲奈の気配ばかりが気になってしまう創。
そんな創をよそに、玲奈はいつもより少しだけ距離が近い。
一緒に写真を現像し、映画の話をして、そのまま二人で向かったのは国道沿いのネットカフェ。
けれど、積極的に見えた玲奈にも、創には見えていない気持ちがあった。
「嫌われたらどうしよう……」
好きな人をまともに見られないのは、創だけではない。
近くにいるのに話せない時間。
眠る横顔。
聞き取れなかった言葉。
そして、映画を観ながらそっと絡んだ小指。
写真なら、ピントを合わせればいい。
でも恋は、近づくほど何も見えなくなる。
夏の一日。
写真部の先輩と後輩、二人の間にあった曖昧な距離が、少しずつ焦点を結んでいく。