あらすじ
『第1編 クオリアへのレクイエム』
第二次大戦下の欧州を巡った外交官の手記は、80年後、別の暴力として甦る――
【第1編の主な登場人物】
・杉村隆(架空):日本の外交官。在ベルリン日本大使館勤務、兼・欧州情勢調査担当。法制度と国家秩序に関心を持ち、手記を残す。
・ラドゥ・イリエスク(架空):ルーマニア外務省勤務。民族感情と現実主義の狭間で揺れる。
・アレクサンダル・ペトロヴィッチ(架空):ブルガリア王国軍人。秩序への信仰と戦時の暴力の間で葛藤する。
・ミクローシュ・ホルティ(実在):ハンガリー王国摂政。国家存続のため対独関係に苦慮する。
・リスト・リュティ(実在):フィンランド第五代大統領。対ソ講和をめぐる困難な政治判断を担う。
『第2編 王冠の境界線』
戦争が暴いた、王冠の本当の役割――
【第2編の主な登場人物】
(1)日本
・杉村透(架空):日本外交官。ベルリン日本大使館を拠点に欧州各国を巡る狂言回し。観察者。記録者。比較君主制の探究者。1940年、ベルリン日本大使館勤務。欧州王室の動向調査を命じられ、北欧・西欧を巡る。イデオロギーではなく「制度としての国家」・「君主制の本質」に関心を持つ。戦時下の王冠の選択を記録し、戦後は皇室外交にも関与。晩年に手記を整理し、死後に発見される。物語の視点を統一し、読者を欧州比較君主制の旅へ導く存在。
(2)デンマーク
・クリスチャン10世(実在):国王。占領下でも国内に留まり、沈黙の象徴として国民と共に残る。
・トールヴァル・スタウニング(実在):首相(1942年5月まで)。占領下で妥協を選び、国民生活の維持を優先。
・ヴィルヘルム・ビュール(実在):首相(1942年5月〜11月)。スタウニング首相が1942年5月に死去した後、後継として首相に就任。ドイツはビュールを「弱腰」と見なし、より協調的なスカヴェニウスを首相にするよう圧力をかけた。ビュール内閣はわずか半年で崩壊。
・ エーリク・スカヴェニウス(実在):首相(1942年11月以降)。ビュール内閣総辞職後、後任の首相として、ドイツとの協調政策を進め、戦後批判の対象となる。
・ヨハン・ミケルセン(架空):デンマーク外交官。占領下における妥協と国家の存続の間で揺れる。降伏と妥協の狭間で揺れ、象徴として残る王の意味を杉村に語る。
(3)ノルウェー
・ホーコン7世(実在):国王。ドイツの要求を拒絶し、政府と共に亡命。抵抗の象徴となる。
・ヨハン・ニュゴースヴォル(実在):首相。亡命政府を率い、国家の継続を担う。
・エリック・ラーセン(架空):ノルウェー外交官。亡命政府に同行し、国家の所在について葛藤し、「住所を失う国家」の痛みを語る。
(4)オランダ
・ウィルヘルミナ女王(実在):国王。亡命政府を率い、ラジオ演説で国民を鼓舞。戦後は象徴として再評価。
・ディルク・ヤン・デ・ヘール(実在):首相(1940年まで)。戦前の政治的混乱の中で退陣。
・ピーテル・ヘルブランディ(実在):亡命政府首相。ロンドンで亡命政府を率いる。
・ヘンドリック・ファン・デル・フェルト:オランダ外交官。亡命政府勤務となり、帝国崩壊と植民地喪失を目撃する。戦後の記憶政治を杉村に語る。
(5)ベルギー
・レオポルド3世(実在):国王。国内残留を選び、戦後に激しい論争と王制危機を招く。
・ユベール・ピエルロ(実在):首相。亡命政府を率い、国王の判断を批判。
・アンリ・ド・スメット(架空):ベルギー宮廷付き外交官。王と亡命政府の間で忠誠を引き裂かれ、「二重国家」の痛みを体現。
(6)ルクセンブルク
・シャルロット大公(実在):大公(君主)。亡命しながらも国民の象徴として戦後復興を導く。
・ピエール・デュポン(実在):首相。亡命政府を率いる。
・マルセル・ヴェーバー(架空):ルクセンブルク外交官。国家が制度として消滅する瞬間を見届け、「象徴だけが残る」現実を語る。
(7)モナコ
・ルイ2世(実在):公(君主)。生存のために沈黙と中立を選ぶ。
・エミール・ロベル(実在):国務大臣(他国の首相に該当)。ヴィシー政権との関係調整を担う。
・ジュリアン・モレル(架空):モナコ宮廷外交顧問。ヴィシー政権下で中立と従属の境界に立つ。小国の君主制が「誇りではなく、生存技術」であることを杉村に示す。
(8)スウェーデン
・グスタフ5世(実在):国王。中立政策を支持しつつも、政治的権限は限定的。
・ペール・アルビン・ハンソン(実在):首相。中立維持のための妥協と外交を主導。
・カール・リンデグレン(架空):スウェーデン外交官。中立政策と道徳的責任の狭間に立つ。中立の倫理と現実の狭間で葛藤し、「生存のための中立」を語る。
(9)リヒテンシュタイン
・フランツ・ヨーゼフ2世(実在):大公(君主)。国家の存在感を薄く保ち、影のように生き残る戦略を取る。
・ヨーゼフ・フープ(実在):首相。スイスとの連携を通じて国家の生存を確保。
・ルーカス・シュタイナー(架空):宮廷秘書官兼外交補佐官。小国が生き残る静かな戦略を理解している。「存在しないように振る舞う国家」の哲学を杉村に語る。
『第3編 支配の環状線――法務省の闇と内閣人事局の審判』
人事が法を殺す。三権分立が自作自演の『環流』に溶けゆく、司法の葬送曲――
【第3編の主な登場人物】
・羽室倫(はむろりん)(架空):法務省大臣官房審議官(国際刑事担当)。外務省からの出向組。その後、内閣官房内閣人事局人事政策統括官、次いで、内閣官房副長官(事務)となる。外交官・杉村隆の傍系の末裔。外交官・杉村隆の「手記」の内容を幼少期に自身の手帳に書き写しており、その手帳の内容を組織解剖の指針とする。その手記に「法の死」を冷徹に記述する。
(1)法務省の非法曹キャリア官僚
・水野遥(みずのはるか)(架空):内閣人事局参事官(法務省からの出向)。法曹資格を持たない法務省のキャリア官僚。内閣人局において、すべての裁判官と検察官の「思想的」傾向と出向履歴を紐付けた「還流データベース」を構築。法曹貴族への復讐心から内閣独裁の「去勢装置」を完成させるが、後に自らの行為に戦慄し、佐藤と共闘を試みる。
(2)裁判所・検察のエリート
・榊健太郎(さかきけんたろう)(架空):法務省刑事局長(検事)。その後、東京高等検察庁検事長、次いで、最高検察庁検事総長となる。検察のエリート。「組織を守る」という名目で、内閣人事局の介入を容認。人事を餌に検察の独立性を切り売りする。最後はシステムに最適化された「空虚な検事総長」へと成り下がる。
・大河内宗純(おおこうちむねずみ)(架空):最高検察庁総務部長。検察の「金庫番」であり、人事を差配する実力者。水野たちが持ち込んだ決定的証拠を握りつぶし、自らの「天下りポスト(大手損保顧問)」を確保するために、後輩たちの告発を事務的に葬り去る
・久保寺誠(くぼてらまこと)(架空):最高裁判所事務総局人事局長(判事)。その後、最高裁判所事務総長になるが、退官。司法の最高中枢にいる人物。再任拒否や不当な地方異動を「事務的処理」として断行し、裁判官たちの良心を去勢する。最終的に自らの犯した罪に気づき、水野らに加担するが、羽室に葬り去られる。
・溝口潔(みぞぐちきよし)(架空):裁判所から出向中の内閣法制局参事官。憲法の番人でありながら、人事を人質に取られ、政治の欲望を「合憲」に見せるための「解釈の曲解」を行う。知性が独裁に奉仕する際の「言葉の犯罪」を象徴。
・高梨謙造(たかなしけんぞう)(架空):ある地方都市の法務局訟務部付検事(法務省訟務局付)。裁判官であるが判検交流により法務省訟務局に出向し、ある地方都市の法務局訟務部付検事として勤務。出向中は裁判官ではなく検察官身分で国の代理人(訟務検事)を務める、三権分立の境界線上に位置する特異な存在。その本質は、法の正義を追求する探求者ではなく、「キャリアの完全性」を追求する保身の怪物である。
(3)システムの犠牲者と抵抗者
・佐藤健治(さとうけんじ)(架空):ある地方都市の法務局訟務部の訟務官。真面目な役人。官邸に不都合な証拠を見つけるが、上司(高梨)の指示で自らシュレッダーにかける。物語終盤、その「証拠の残照」を手に水野、久保寺と共に最後の抵抗を試みる。
・柳誠一(やなぎせいいち)(架空):行政訴訟を担当する若手裁判官。国側の申し立てを却下する「正当な判断」を下したことで、内閣人事局と最高裁事務総局人事局の共謀により再任拒否(パージ)の対象となる。司法の自浄能力喪失のきっかけとなる人物。
(4)背後の存在
・「男」:外交官・杉村隆のひ孫で、実力のある政治家。内閣人事局の実質的支配者。羽室の遠戚。羽室を「眼」として使い、水野に「道具」を作らせ、榊や久保寺や大河内に「自壊」を迫る、すべての崩壊の設計者。202X年1月に首相となる。
『第4編 主権の薄明』
その公電は、世界が壊れるときの音がした。四作の思想体系、ここに完成――
【第4編の主な登場人物】
(1)日本
・宗像隆一(むなかたりゅういち)(架空):狂言回し。駐EU日本政府代表部・一等書記官。「主権の死の観察者」。杉村透(第2編)の曾孫、杉村隆(第1編)の遠縁、羽室倫(第3編)の遠戚。表向きは穏やかで教養深い。内面には「法の死」と「王冠の死」を継承した冷徹な観察者。「男」とは「同族の異端」として互いに存在を感じ取る。破壊者ではなく、崩壊を加速する「触媒」。EUの死を記録する第四の手記の作者。四部作の思想を統合する「総合知性」。
(2)EUの5人の主人公
・エリック・フォン・リヒター(ドイツ)(架空):欧州委員会・安全保障担当官(架空の役職)。「理性の敗北」。曾祖父が1940年代ベルリンで杉村隆(第1編)と接触。法の支配を信じるが、EU法秩序の限界を目撃。宗像の背後に「男」の影を見る。「法の死」の現代的再演者。EU法秩序の崩壊を体現する人物。
・マルク・ド・ビルヌーブ(フランス)(架空):フランス外務省・政策企画局長(架空の役職)。「主権の虚栄」。欧州自律を掲げるが、軍事力の空虚さを直視しない。宗像の論理に絡め取られ、日本の新秩序に利用される。「王冠の虚栄」の現代版。欧州の「自律幻想」の象徴。
・ジュゼッペ・コンティ(イタリア)(架空):欧州議会議員。元イタリア外交官。「ポピュリズムの頽廃」。日本の「効率的独裁」に魅了。宗像に心酔し、EU内部から統合を破壊する内通者へとなる。「制度の空洞化」の現代版。EU内部崩壊の「内側の火種」。
・ヤン・ベークマンス(ベルギー)(架空の人物):欧州委員会・制度改革担当官(架空の役職)。「理想の死」。緩やかな連邦制を信じる理想主義者。宗像に論破され、世界連邦論の葬列を見届ける。「世界連邦の亡霊」の犠牲者。EUの理念の死を象徴する人物。
・ソフィア・スミグウィ(ポーランド)(架空):欧州委員会・東欧諸国連合調整官(架空の役職)。「生存の恐怖」。ロシアへの根源的恐怖。米国の後退に絶望し、宗像の「劇薬」に縋る。第1作の「東欧枢軸国の悲劇」の現代的再演。生存のために悪魔と契約する国家の象徴。