あらすじ
大国・蒼嶺(そうれい)の後宮で、妃と女官が同じ夢を見て死んでいく。 枕元に残るのは、爪で掻き毟った喉と、血で書かれた「帰りたい」の文字。
祟りだ、呪いだと騒ぐ宮廷に、皇帝は一人の男を放り込んだ。 名を狭霧(さぎり)という。東の島国で「鬼斬り」を生業とする、剣の遣い手にして異邦の薬師。訳あって大切なものを失い、宦官として後宮に入った過去を持つ。
その男の頭の中には、前世の記憶がある。 日本で薬剤師として働き、効率ばかり追い求めて、目の前の「人」を見ずに死んだ、三十四歳の男の記憶が。
宮廷の闇を計算で読む女官長玲琳(れいりん)、鬼を斬るたびに涙を流す狭霧。 やがて二人が辿り着く真相は、後宮に棲む鬼の正体―― かつて「人だった者」が、二度と帰れない故郷を想い続けた果ての姿だった。
帰りたい者と、帰る場所を失った者。 これは、殺すことと救うことの間で揺れる、異邦の薬師の物語。