あらすじ
首の取れた狐を手提げ袋に入れて、青年は工房へやってきた。
頑固な剥製職人・古賀と、口の減らない弟子・牧田。
半分に分けた弁当から始まった付き合いは、いつしか九年になる。
工房には二人分の湯呑みが増え、古賀には、一人分の弁当を買えない癖がついた。
「そいつの耳だ。お前の都合で増やすな」
失われた命の姿を残す仕事には、直していいものと、直してはいけないものがある。
その境目をめぐり、何度もぶつかってきた二人。
ある日、県外の客から届いた一本の電話が、工房の秘密に触れる。
器用な手でも、取り返せないものがある。
小さな剥製工房を舞台に、師弟の情と人の弱さを描く短編ミステリー。