あらすじ
人類は、怪物に敗れたわけではない。
駆除し、研究し、柵を築き、道路を守り、農地を守った。
新たな生物から得た素材は、装甲になり、センサーになり、発電設備になった。
人類は考えうる限りの方法で適応した。
それでも、世界は少しずつ狭くなった。
第二生態系の出現から三十年。
海の大部分と、維持する価値を失った土地は、人間の管理を離れている。
そんな時代にも、熊本・有明圏の玉岐市では、田んぼに水が張られ、農家は作物を育て、市役所職員は補助金の書類に頭を抱えていた。
農業政策課に勤める主人公のもとへ、ある朝、一本の電話が入る。
「去年つけた柵が壊れとる」
よくある農業被害のはずだった。
アツジシか。
ホリシャクか。
それとも排水路に棲むミゾスボか。
だが、どれとも違う。
そして残された足跡は、倒れた柵の「外」ではなく、「内側」から続いていた。
人類は三十年間、外から来るものを防いできた。
もし、それが最初から内側にいたのだとしたら。
玉岐市の小さな農地で見つかった異変は、やがて人類が第二生態系について信じてきた前提そのものを揺るがしていく。
これは、怪物を倒して世界を救う英雄の物語ではない。
農家と話し、制度を動かし、現場へ出て、時には逃げながら――
それでも自分たちの暮らす場所を、どうにか明日へ残そうとする人々の物語だ。