あらすじ
アルバニア・ジロカストラを舞台にした20代30代女性向け国際恋愛の短編小説。
前後編で完結する読み切り作品です。
東京で舞台衣装のパタンナーとして働くミサキ、29歳。会社を辞める決心をしたものの、次に何をするかを決められないまま、学生時代から親しかったアルバニア人女性の結婚式に出席するため、ジロカストラを訪れる。
結婚式前日、旧市街で頼まれた刺繍布を受け取りに行ったミサキは、急な雨に遭う。石畳を流れ始めた水から布を守ろうとしていると、向かいの店から一人の男が飛び出してくる。
アルディ、31歳。古い家屋の木製建具を修復する職人。
彼は布ではなく、ミサキが濡らした青いスカーフを真っ先に拾う。
「そっちは結婚式のじゃない」
なぜ分かるの、と聞くと、
「さっきから、それだけ何度も触ってたから」
彼女自身も気づいていなかった癖を、初対面の男が見ていた。
結婚式まで三日。新婦から追加で頼まれた準備を手伝うため、旧市街を何度も歩くミサキと、土地勘のあるアルディは自然と一緒にいる時間を増やしていく。
急坂では彼が先に歩く。けれど振り返るたび、少しずつ歩調が遅くなる。
夕方にはバザールで食べ、修復中の古い家で雨宿りし、城壁から谷を眺める。
ところがミサキはやがて、アルディ自身も「この町に残るか、ティラナへ移るか」という選択を先延ばしにしていることを知る。
互いに相手の人生の答えは出せない。
それでも結婚式の夜、歌声が重なる石の町で、二人は初めて「別れる前提」ではなく、この出会いを続けるには自分は何を選ぶのかを考える。