あらすじ

主人公は大阪府堺市浅香山に住む老夫婦。二人はこの土地に住みながら娘を育て上げて嫁に出した。会社を定年まで勤め上げた。今月も自宅のローンを払い終わった。そんな人生の区切りと共に、夫の良一は自分たちが世の中から切り離されていくような不安感を抱いている。同時に夫婦の間に価値観が異なって、感情のすれ違いを産み始めている。夫婦はその溝を埋めるための旅行に出かけることになる。二人は白浜でゆっくり温泉にはいるという名目で旅を始めたのだが、電車の中での諍いがきっかけで、目的地を奈良観光に変更することになる。更に感情のもつれが高じて、二人は目的地を伊勢に、伊勢から草津に、草津から京都に、次々と目的地を変更して、その日の夕刻には大阪に戻ることになった。その旅の過程では、様々な人との出会いがあったものの、二人は旅の目的を遂げることなく、大阪駅に到着する。 二人は電車を降りようとしない。どちらが提案するともなく、このまま二駅ほど先の兵庫県の尼崎の娘夫婦の家に孫の顔を見に行くことにしたのである。孫はこの二人を『ツツジのお爺ちゃんとお婆ちゃん』と呼んで慕っている。娘と孫の顔を見た夫婦は、夜半、ようやく朝香山駅に戻って来た。二人はツツジで有名な浄水場に接する道路を通って帰宅しながら、ほっと肩の力を抜くような安堵感を感じた。故郷に帰ってきたという感覚が、夫婦がこの土地で過ごした年月を思い起こさせて、二人はさり気なく手を繋いだ。その街灯に照らし出される後ろ姿は、確かに仲の良い夫婦のものだ。二人はようやく旅の目的を達したらしいのである。

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小説を読もう2026/09/17
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