あらすじ
会社では経営者として強く振る舞い、社員や取引先の前では迷いを見せない「僕」。
けれど家に帰れば、妻との会話は減り、夫婦の間にはいつしか冷たい沈黙が流れていた。
そんな僕の心を救ってくれたのが、レッサーパンダに似た女性セラピストだった。
彼女の前では、僕は経営者ではない。
成功者でも、夫でもない。
ただ疲れきった一人の男として、弱さも孤独もさらけ出せる。
彼女は僕を責めない。
無理に答えを求めない。
ただ静かに話を聞き、「頑張らなくてもいい」と受け止めてくれる。
その優しさは、乾ききっていた僕の心にゆっくり染み込んでいった。
やがて僕は、彼女との時間を待ち望むようになる。
会うだけで心が軽くなる。
声を聞くだけで安心する。
触れなくても、そばにいるだけで満たされる。
それは恋なのか、依存なのか、それとも愛なのか。
僕自身にも分からなかった。
一方、妻は僕のことを誰よりも長く知っている。
僕が成功する前も、失敗したときも、格好つけて強がるときも、その裏で怯えているときも知っている。
夫婦としての情熱は薄れ、会話も触れ合いも減ってしまった。
それでも妻は、僕が帰れば「おかえり」と言う。
食事を用意し、疲れた僕を気遣う。
その何気ない優しさに触れるたび、僕は自分がどれほど妻を傷つけてきたのかを思い知らされる。
そして僕は、二人の女性の間で揺れ始める。
妻には、長い年月をかけて築いた愛がある。
セラピストの彼女には、今の僕を救ってくれる、心地よく、危うい愛がある。
妻を選ぶことは、セラピストの彼女を失うこと。
けれど彼女を完全に捨てることも、僕にはできない。
彼女は単なる恋の相手ではない。