あらすじ
前世、深夜の当直で薬の見落としに気づけないまま患者を失い、過労のうちに息を引き取った病院薬剤師・一ノ瀬唯。転生した先は、争いの絶えない二国の境――通称「灰の峠」の関所町・灰迎(はいむかえ)だった。名はリーネ、没落気味の貴族の非嫡出子として押しつけられた、傾きかけの一膳飯屋兼よろず薬屋「はこべ亭」の若き店主である。
薬でも料理でも「知りすぎている」ことを悟られないよう、今日も愛想笑いでごまかす毎日。そんな関所に、鼻持ちならないほど有能な新任監査官・カイルが赴任してくる。彼の任務は、駐屯地で相次ぐ不審な中毒事件の調査――そして、その調査対象の筆頭は、他でもないリーネだった。
疑われて黙っているわけにはいかない。かといって、うっかり本気を出せば「ただの田舎娘」の仮面が剥がれてしまう。――だったら、バレない程度に、本気を出せばいい。
一杯のスープに毒を盛られた男を救うところから始まる、意地っ張り同士のずるい駆け引きと、薬膳がつなぐ小さな奇跡の物語。