あらすじ
生まれた瞬間から、シオン・リーメルの記憶には三つの言葉だけが残っていた。
――Solve. Compare. Coagula.
意味も、誰から教わったのかも分からない。
地方交易都市アルネアで、小さな商店を営む父と妹に囲まれて育ったシオンは、幼くして固有能力を発現する。
それも、極めて珍しい“眼”の祝紋。
周囲は《鑑定》を超える希少能力ではないかと期待した。
しかし、与えられた能力は――《比較解析》。
できることは、二つの対象を一つの基準で比べるだけ。
数値は分からない。
理由も分からない。
曖昧なものは比べられない。
便利ではある。
だが、《鑑定》の下位互換。
少なくとも、誰もがそう思った。
シオン自身も例外ではなかった。
それでも彼は、なぜか“分からないこと”を放っておけない。
何が比べられるのか。
何が比べられないのか。
条件を変えればどうなるのか。
失敗して、試して、また失敗する。
そうして能力を調べ続けていたある日、父の店で扱った薬草を巡る問題が起こる。
本物なのに、薬が効かない。
《鑑定》でも異常はない。
店の信用が失われようとする中、シオンは初めて、自分の地味な能力を本当の意味で使うことになる。
比較できないなら――比較できる形にすればいい。
これは、最強の力を与えられた少年の物語ではない。
弱い能力を問い続けた少年が、
人を、組織を、国を、
そしていつか“世界”さえも見つめていく物語。
けれど、どれだけ比べても答えが出ないものがある。
正しさ。
幸福。
誰かを大切に思う気持ち。
そして――どの未来を選ぶべきか。
《比較解析》の少年は、やがて知ることになる。
最適解と、正解は違うのだと。