あらすじ
高瀬拓海には、どうしても誰にも会わせようとしない彼女がいた。
半信半疑だった俺に、「会ったことがある」と言ったのは、恋人の水野莉奈だった。
「本当にきれいな人だよ。悠人は会わないほうがいいかも。会ったあとで、やっぱり私よりあっちがいいとか言われたら嫌だし」
冗談交じりの嫉妬だと思って、それ以上は聞かなかった。
それからしばらくして、拓海がまたその彼女と喧嘩をしたらしく、居酒屋で潰れるまで酒を飲んだ。
莉奈は相手に連絡してみると言い、俺は拓海のそばに残った。少し前まで使っていたせいか、拓海のスマートフォンはまだ画面が点いたままだった。
LINEのトーク一覧を見ると、そのいちばん上にピン留めされていた相手の名前は『彼女』。
そのままLINE通話をかけた。
応答はなかったが、すぐに「今から行く」とメッセージが返ってきた。
どうしても顔が見てみたくなった俺は、テーブルに突っ伏し、そのまま寝たふりをした。
しばらくして、個室の扉が開いた。
入ってきたのは莉奈だった。
彼女は迷うことなく拓海のところへ行くと、屈み込んで頬に手を触れた。
「何でこんなに飲んだの?」
拓海は顔を上げ、そのまま莉奈の唇にキスをした。
それから、俺のほうをちらりと見る。
「先に悠人を帰そう。起きて見られたら面倒だし」
テーブルに伏せたまま、少しも動けなかった。
指先がすっと冷たくなる。
拓海がずっと隠していた彼女は、今、目の前で彼の隣に立っていた。